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March 21, 2006

笑顔

ちょっと酔った・・・。こんな時間なのにちょっとだけ。

今日は異常なのんびり具合に明日のWBCに備えようと早々店じまいをした。
しかしながら、さっきまでグイグイと押し寄せていた睡魔は終業とともに消え去っていた。
そこから退屈な時間へと切り替わる。
眠りたいのに眠れない。
たまらず、鞄の中から一冊の単行本を取り出しひとり、読書でこの退屈な一時を埋めようとした。

半分も読み終わらぬ頃、扉をノックする音が。
WBCを一緒に観戦しようと約束していた「ぐっさん」と決めつけ、解錠してドアを開ける。
しかしそこには、明らかに男とは思えない、いや人間とも思えない白い”塊”が、使い捨てたティッシュペーパーのように横たわっているではないか。
「何じゃこれは???」

しばらくするとそれは、白いジャケットをまとった女性だと認識できた。
唄うたい「さき」だった。
ムクッと起き出した「さき」は結構酔っぱらった様子。
そりゃそうだ。人気のない通りに面したこの扉の前でひとり丸まっているんだから。
正気じゃない。

正直、「おいおい、勘弁してよ」と思った。

今日は、早い時間お酒に付き合わせてもらったものの、その後の長い時間酒を口にしていない。
今更飲むと止まらなくなり、明日に差し支えると思いコーヒーを飲んでいた僕にはあまりに冷静にその景色が目に映る訳で。
さあどうしよう?目に入ったと同時に僕は考える。

とっさに出た言葉。

「家に帰って寝なきゃいかんよ」

冷たい男だ。

しかし、酔っている「さき」には馬の耳に念仏だ。
その台詞を言っている途中、既に話し始めてる。
人の話を全然聞いてない。

それからしばらく、一方的に話し続ける。
まるで僕は、若くして成功を収めたカリスマ的実業家の講演会に参加しながらも、自分とは考え方が違うと思った途端、話が全くもって面白くなくなって、この後のお客さんとのアポイントの時間を気にしながら終了時間が待ちどおしくなった、管理職への昇進間近のトップ営業マンのように話半分状態で聞き流す。

酒飲んどきゃ良かった。
本気で思った。
素面の時はこうもつまらない男なのか。自分にがっかりもした。
こんな時もある。自分を慰めもした。

どのくらいの時間が経っただろう。
しばらくして乾杯しようと言い出す。
そうだ飲めばいいんだ。
どうやら、脳みそは眠っていたらしい。
こんな事も思いつかなかった。飲めばいいんだ。

そこで乾杯したはいいが、そう簡単に酔えるもんじゃない。
普段ないぐらい、脳みそは平静を装っている。装っているどころか充分に自然な状態で平静だ。

そうこうしていると、歌を歌うと言う。
ここまでの話、ほとんどが恋愛話。略して”こいばな”だ。
その恋愛ネタで、それらの思いを歌にしたらしく、「歌いたくなってきちゃった」って訳だ。
こりゃ長くなる。もう覚悟は出来た。徹夜で野球観戦になる覚悟が。

ところが。ギターの音が鳴り、歌声が響くと、ランナーズハイのように快感指数があがる。
今までの退屈な時間はこの時の為に過ぎてきたんだと言わんばかりに。
マラソンで言うと30キロすぎたあたりか。
僕の脳みそからエンドルフィンが吹き出してくる。いや、吹き出すはずはない。
酒がいい具合にまわってきた。

いい歌だ。率直な僕の感想。

「サビがいいね」なんて語っている。退屈とは正反対の充実したひとときを過ごしている自分がいた。

何曲聞いただろう。たくさん聞いた。

ふと我に帰ったとき自分もよくやってるなと気づく。
酔って勝手に歌い始める。頼まれてもないのに。

聞かされる人の気持ちがわかった。
気をつけようと思った。

でも、心に響く歌なら聞きたい。そうとも思った。
今の僕のように。

歌う前に一方的に語られ続けてた事を、聞いていなかったつもりが聞いていた。
その気持ちを歌う「さき」を見ているとちょっと涙が出そうになった。

歌っていいな。そう思った。

朝方夜明け前、随分と素面に戻った「さき」が家路につく。
勝手な奴だ。
ここまで付き合わせておきながら、気が済んだと言わんばかりに笑顔で手を振る。
僕にも付き合えと言いたかった。
僕にも話したい事がある。
でも、今日はいい。

帰り際のドアの前、非情な僕は、「上手くいくとは思わないけど頑張って」と本音をこぼす。
「わかってる」。そんな台詞に全く動じず応えてくれる。強がってる。でもいい。辛いのはあなただけじゃない。

僕も笑顔で見送る。

良かった。笑顔で良かった。
僕も笑顔になった。

人にはそれぞれ事情がある。
悩みもいっぱいあるだろう。どうしようもない事いっぱいあるだろう。
それでも生きていくのだ。
あなたがいるから生きてゆけるのです。そんな気持ち。

ひとり、僕は考える。
大切な人達の顔が浮かぶ。

僕らはひとりじゃない。
きっと今日の「さき」は、僕に会えて良かったと思ってくれているだろう。
遠慮のない関係こそ、いざという時の支えなんだな。
なくてはならない関係を見つめ直したひと時だった。

そうして、僕も歌を綴る。
大切な人を思いながら。

夜が明ける。僕の心も夜が明ける。
もうすぐ、夜が明ける。。。。

投稿者 litfie : March 21, 2006 05:32 AM

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